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目が覚めればチカチカとした装飾が目に入る。此処はどこだと頭を回転させ、昨日ボンゴレの跡継ぎである綱吉のボディーガードとして、この大きな城に来たのだと…思い出す。そういえば…綱吉の部屋にいた彼は何だったのだろうか?やはり疲れからの幻か?今日はやけに、体も軽いし
多分そうだ。あの部屋を出てからは一度も見てはいないし、死んだ彼が此処にいるとは思えない。頭を整理させながら、ちゃんとした服へと着替える。ノックの音が聞こえた。
「朝食をお持ちしました。」
綱吉のボディーガードとして、この地に足を運んだはずが、これではただの来客扱いである。(綱吉からしたら元々そういうつもりで此処においたのだろうけれども。)自分の情けなさに悲しくなる。
「ツナの所で食べるからそっちの扉の方に置いといて貰えますか?」
「しかし…いえ、畏まりました。」
足音が遠ざかる。先日の9時頃にベッドへと入ったというのに今や朝の7時だ。どれだけ…熟睡していたのか。綱吉は、きっと今日もリボーンのことを想い、眠らずに過ごしたであろうというのに。それはとても辛いことだ。ノックの音が廊下へと大きく響きわたる。まるで別世界に来たような奇妙な感覚。
「はい?」
「貴方の泣き虫ランボです。」
部屋の中からは小さな笑い声。食欲を誘う朝食の湯気と薫り。それはまるで幸せな日常を錯覚させる。扉が静かに開いた。笑う彼の隈はより一層に濃くなっている。それでも彼
は、おはようと無理をしてでも笑うのだ。
「…スイマセン。ツナ。」
「ランボ?」
貴方を守りに来たというのに、自分は彼が無理して笑顔を作っているのを知らない振りをしているだけである。しかし…それに触れれば貴方は嫌がるだろうから…自分も無理をしてでも笑わなければならない。とんだ馬鹿げた自分勝手のエゴである。
「一緒に朝食を食べたいと思ったのですが、空腹のあまり先につまみ食いしてしまいました。」
「なんだそれ。」
彼は少しだけ、声をあげて笑った。今度は無理矢理などではなく、ただ単純にそうやって笑って欲して、俺は馬鹿なことばかりを繰り返す。
「さっ、早く朝食食べて行きましょう。今日は大事な会議もあるんでしょう?」
朝食を二人分テーブルへと置く、綱吉の表情が曇ったのを…知らない振りをした。
「昨日早く寝てしまったからお腹空きすぎてしまって…。」
一人、着々と朝食を平らげていく。綱吉も…少しずつでもあるが、朝食に手をつける。
「すごいお腹空いてたんだね。食べる?」
綱吉は…下手くそな笑顔を浮かべる。
「いいんですか?って…ツナももっと食べないと。縮んでしまいますよ。」
胃にキツそうなオリーブあえだけを頂く。そして綱吉が食べ終わるのを何も言わずに見ていた。
「じゃあ、これ片づけてきますね。ツナもそれまでに準備の方はよろしくお願いします。」
「わかった…。」
トレイをもち、重い扉をあける。廊下にいた従者が食器を持っていった。綱吉はすぐさま御手洗いへと駆け込む。扉越しに聞こえる嗚咽の声。綱吉の胃は食物を拒否したのだろう。しかし…それしか方法がないのだ今は。
「ガ、マ…ン…」
ただ…そんなことは何も知らない振りをした。
車は静かな音のまま走り、沈黙はとても重たい。サングラスが太陽を反射し、妙に眩しい錯覚を覚える。隣にはずっと無言のまま、彼が座っている。沈黙に耐えきれず、適当なラジオ局を回してみたけれども、ろくな番組もなく…結局静寂へと戻った。
「ランボ…意外に運転うまいんだね。」
「はい?」
「君が運転っていうから…かなりの死を覚悟してたけど…。」
「ツナ…失礼ですよ。運転くらい人並みにできますよ。」
ごめん、ごめんとあまり反省をしているようには聞こえない声。それでも少しでも…綱吉が笑ってくれるならと祈る。目的地には先代の補佐や獄寺さん達が待っていた。
「それじゃあ、帰りの時間になったらまた来ます。」
「ああ。」
ボディーガードとして先代に呼ばれたもののまだ、ボンゴレとして認められたわけではなく、大事な会議には立ち会えない。それに…リボーンの部屋を片付けるという仕事も残っていた。綱吉が心配ではあるものの…リボーンとは違い、俺がずっと傍にいることを許しては貰えない。ただ…昨日見えた彼の姿が脳裏によぎったが、首を振り気のせいであると自分に言い聞かせた。車庫へと車をしまい、彼の部屋へと向かう。綱吉に渡された鍵は…なぜか少しだけ錆かけていた。大きな音が静寂を覆う。開けるとともに…苦い硝煙のような匂いとそれとともに甘いバラの薫りがした。辺りを見渡す。花瓶に入れっぱなしで枯れてしまったバラ。そのままの書類。大量の銃。綺麗に整頓された本棚。まだ、今すぐにでも彼が帰ってきそうな錯覚に襲われた。
『おい…アホ牛。』
「ウワッ!!!!…り…リボッ…。」
また…尻餅をついた。これは夢だと目を瞑り何度も繰り返す。
『いい加減諦めやがれ。』
うっすら目を開ければ自分に伸びてくる手。また強く目を瞑った。しかしいつまでたっても痛みどころか何の感触もない。
「リボーン…?」
目を開ける。自分を通り抜けていく手。リボーンが…とても辛そうな顔を浮かべたのを、また気のせいであると誤魔化す。
『そういや…見えても触れられやしなかったんだな。』
そんな言葉に…一瞬泣きそうになった。そうだ…例え目の前にリボーンが見えたとしても…もう彼は死んだのだ。自分の目の前で…多々の的に囲まれながら…ボロボロになりながら、たった一人…綱吉のためにずっと戦っていたのだ。
「ごめん…間に合わなくて…」
『端から期待すらしてねえよ。』
人を蔑むような笑い。しかし体越しにすけて見える部屋の風景。嗚呼…彼はもうこの世で呼吸をすることすら許されないのだ。悲しい悲しい現実…。
『まあ…お前に連絡した俺も馬鹿だったしな。で、この部屋に何のようだ。』
声が上手くでない。リボーンのそんな顔など見たくない。
「あっ…ああ。先代に、リボーンの部屋の…遺品を片付けるよう言われて…。」
リボーンは笑った。それは…あのとき見た綱吉の瞳に似ている。笑っているのに…それは泣いていて悲痛の叫び。笑わないで、そんな言葉はでない。臆病者の俺はわかっているくせに全て知らない振りをする。何が…綱吉を救いに来ただ。言葉一つ上手く見つけられず、笑って誤魔化して、蓋をして…それは結果、彼を苦しめるだけのものにしかならない。何をしにきた、本当に…その通りだ。愚かな話だ。
『全て…燃やしていい。』
リボーンと綱吉の顔が重なる。笑って、無理に顔を歪めて何になる。今は俺しかいないんだ。むしろ誰もいないのと同じだから…そんな表情など要らないから。そんな言葉聞きたくないから。
「ツナと…同じことを言うんだね。」
リボーンは眉を潜める。
『あいつは…馬鹿だ。』
「…。」
要らないものと、誰かに渡して欲しいもの。リボーンに聞きながら分けていると、気づけばお昼をすぎていた。大きな時計の音は多分屋敷中を包むのだろう。そういえば、覚えているかと口を開く。
「小さい頃、ツナがどうしても塔の時計の裏側が見たいって聞かなくて三人でこっそり鍵を拝借して見に行ったの。」
あれは、珍しくリボーンは止めなかったよなと。いつもツナや自分が馬鹿なことを考えてやろうとすれば、それを止めるのはリボーンの役目であった。
『たまたま…だ。』
時計の裏側は大きな歯車がいくつも並び、連鎖するようにゆっくりと回っていた。ちょうど、そこについたのがお昼頃であり、鐘が大きな音を鳴らして鼓膜が破れそうになったのを覚えている。(リボーンは耳栓を一人していたけれども。)その後は思いっきり笑って、そこから見える景色が何よりも綺麗だった。カタッ、小さな音がし、ドアを開ければそこには一人分のランチが置いてあった。そうだ…二人分が並ぶわけがない。泣いてしまいそうになった。冷えたランチを、リボーンと話しながら一人食べる。。微妙に塩辛いと笑うと、てめぇの涙だと言われて余計に笑えた。(涙は止まらなかったが。)冷めたランチはとても美味しくないものであった。
「なあ…どうすればいいんだ。」
綱吉はお前が居なければ駄目なのに、なんでリボーンは今この時、一緒の空気も吸えず、此処に存在していないのだと。理解に苦しむ。
「リボーンじゃなくて俺が死ねば良かったのにな。」
そしたら綱吉は確かに泣きじゃくって、2、3日は立ち上がらなかったかもしれないけれども、リボーンがそれを一括して、少しだけ背中を貸して、そしたら綱吉はまた元気になれる。そんなストーリーのほうがずっと幸せだ。リボーンが死んでからどれくらいの期間が過ぎた?彼はどれだけ苦しんだ?どの位狂った?何日寝てなくて、食べれなくて泣くことすら思い出せずにその世界を失った?
「ツナにとって…リボーンの居ない世界など無意味なんだ。」
きっと僕等が、綱吉のいない世界を、本当の世界だと感じれなくなるような。きっと、そんな感じだ。もしも誰かがこの会話を聞いていたら、自分の独り言のようにしか見えないのだろうか?きっとそれは酷く滑稽で頭の逝かれた奴に見えるだろう。それはそれで構わない。寧ろそう思われればいいと願った。リボーンはくだらないと…自分を、綱吉を笑う。胸倉を掴んでやりたい衝動に駆られる。
『お前が、ツナを救えばいい話だろう。アホ牛が。』
「お前はっ!!」
俺が、綱吉を救えるというなら、他の誰かが獄寺さんが、山本さんが先代が彼を救えるというのならとっくに、他の大切なものを失ったとしてもやっている。リボーンじゃなきゃ、綱吉は駄目なのだ!胸倉を掴もうとして触れなくて、そのままリボーンを通り抜けて倒れた。触れられなど…しないのだ。
「なんで……。」
なんでお前は此処に居ないんだ。涙を、止める術を知らなかった。まるで昔と変わらず俺は子供のままで、誰一人救えない卑怯者だ。いっそ声を張り上げて枯れてしまうくらい泣いてしまえればよかった。振り向けば、リボーンはもういなかった。
『お前にしかツナは救えないんだ。』
寧ろ…俺が救って欲しい。滑稽なバンビーノは生きる術も泣く術も知らず死んでいく。気付けばもう、綱吉を迎えに行かなければいけない時間であった。いらないものを袋に詰めて外へと出る。先ほどはそんなことなどなかったはずなのに、誰一人いない世界はとてもとても寒く、鳥肌がたった。目的地につけば、綱吉は笑ってこちらに手を振る。少しだけ暖かくなった空気。
「ランボ?どうしたの?…目、赤いよ?」
「ツナは…。」
何故、泣くことをやめたのですか、その言葉を無理矢理飲み込む。
「ん?」
「いえ、外は冷えますし、早く帰りましょう。」
綱吉は、変なランボといいまた嘘の笑顔を浮かべた。何故泣くことをやめたのか、首を振る。野暮な話だ。泣くことなどできないのだ。全ての感情は…きっとあのとき煙と共に消したのだ。いらない訳がないのに。捨てきれずずっともがいているくせに。夕食は一人で食べたいから山本さん達と食べててと言われる。また、食べないつもりだ。俺に何かを言う権利などない。
「わかりました。」
下手くそな笑顔を浮かべた。彼もまた嘘の笑顔を浮かべて、屋敷に着いたと共にバラバラの道を歩む。
「どうやったら…貴方を救えるんですか?」
ただ…無理矢理でも笑うしかなかった。
(結局誰も救われない。)
end
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