| 1896年、イタリア。
世界で1、2を争うボンゴレ財閥の後継者として育てられてきた沢田綱吉。その座を狙い暗殺を目論む輩も少なくはなかった。そこで9代目はボディーガードとして、幼くして最高の殺し屋と呼ばれたアルコバレーノであるリボ―ンを幼き綱吉の傍へと置いた。
「ねぇ、リボ―ン、俺に何かあったらさ…絶対助けに来てね。」
「当たり前だ…なんの為のボディーガードだ。」幼き頃、笑い合いながら交わした約束。
二人が共に暮らし15年以上が続いていた。
8月21日 狐の嫁入り時
その日は、いつも一緒であるリボ―ンは用事があるため居らず、また最近、外部で妙な動きがあるとの情報もあり綱吉は外出を禁じられていた。何故かずっと胸騒ぎがする。部屋で溜まっていた書類を片付けながらも、悪寒が放れることはなく作業にも身が入らない。そんな時、扉は勢い良く開けられた。荒々しく開けた扉は大きな音を立てて壁へとぶつかる。息を切らしながらも、9代目直属である部下が部屋へと入って来た。
「そんな慌てて…どうしたの?」
何故か目眩がした。ズキズキと頭が痛む。嫌な予感がよぎる。それが気のせいであることをただただ祈るだけであった。彼は肩で息を整えながら。
「リボ―ンが…」
晴れているのに雨の音が一層強く響いた。それはまるでノイズの入ったテレビのように。
「 」
彼はその言葉を口にした。何の冗談だろうか…。今日は真夏のAprilfoolか?全然面白くないし笑えない。つくならもっと面白みのあるろくな嘘をついて欲しい。頭が締め付けられるように痛む。目の前は歪むかのように…。くだらない嘘に倒れそうになる。
「リボ―ンが撃たれた。」
彼は確かにそう言ったか?自分の聞き間違いではないだろうか。彼の言葉が理解出来ない。困惑の顔を浮かべていると、部屋の電話が鳴り出した。
「はい…?」
「ツナ…」
「リボ―ン?!!!」
思わず大声がでて(ほら、彼が言ったのは嘘なんだ。そうでなければ…。)握る受話器には力が入る。
「なぁ…ツナ…」
「今何処にいんだよ!!なんでそんな…」
死にそうな声なんだよ?!!声に鳴らない悲鳴。
頼むからそんな声をしないでおくれ。いつものように皮肉混じりの人を馬鹿するような言葉で笑ってよ。それがお前だろ??なぁ…。嗚呼、泣き出してしまいそうだ。目眩が一層に激しくなる。
「愛してる。」
雨の音が煩くて彼の声が消えそうで…そんな言葉求めていないのに。子供のように泣きじゃくってしまいたい。何も知らずに無垢に笑いたい。それが何を意味するかなど理解しなくていい。
「俺もだよ。だからさ…早く帰って来いよ?今日は特別二人でリボ―ンの好きなワインと美味しいパスタのお店にでも行こうよ。そしてデザートに…」
リボ―ンの好きなアップルパイ作って待ってるから(久々すぎて味の保証はないけど。)その言葉を遮るように
「約束守れなくて…悪い…」
「何言って…!!」
ブツリと途切れた電話。
「オイ!!リボ―ン!!?」
何度掛け直しても通じない連絡先。嫌だイヤだいやだ!!!!そんなの認められるわけがない!!何の悪夢だ。今すぐ夢なら覚めてくれ。そしたら「勝手に殺すな。そんな所で俺がやられるわけないだろう。」なんてリボ―ンは俺を笑うのだ。だからこれは何もかもが夢の妄想で、そうじゃなければ今日は本当にAprilfoolで皆で俺を騙そうと最低な嘘をついていて、そして慌てふためく俺を笑うのだ。なぁ、そうだろ??今すぐ彼が笑いだしてくれるのを祈った。見上げた所で、そこに立っている彼はただ…苦しそうな悲しい瞳をしたままなのはわかっていたけれども。(誰か…冗談だと言って…。)目眩と頭痛は止むことを知らずに世界は見るに耐えぬくらいに歪んだ。リボ―ンのいない世界なら…しがみつく必要など何一つない。そのまま自然に身をまかせ…ゆっくりと目を閉じた。
彼が・・リボ―ンが、俺に向けて笑うことも叱ってくれることも・・・二人で何処かに行くということも・・・二度と叶わぬ夢となった。
「綱吉…。」
先代に声を肩を叩かれる。それは大きく暖かな手であるはずなのに、今…何一つ温もりなど感じられない。むしろそれは綱吉にとってただ煩わしいだけのものとなっていた。
「辛いだろう…。今は泣いていいんだ。」
そんな優しい言葉すら意味など為さない。その言葉は綱吉の耳に届くことなどなく、花に包まれ、箱に眠るリボ―ンの姿を…ただずっと眺めていた。(花などお前には似合わない。酷く滑稽だから。その黒スーツに似合うのは返り血と真っ黒な銃だけだろう?)皆が涙するなかただ ただ…リボ―ンを見ているだけだった。何人か昔馴染みの友人や、自分の手足となり戦うことを決意した部下、惚れていた女などから声をかけられたが、全ては綱吉の瞳に映ることすらせず、そのまま葬式は終了した。煙が昇る。それはリボ―ンの肉体だったものであり、自分にとっての全てであり…煙と共に自分すら消えてしまえればいいと…小さく願った。(愚かすぎて何一つ意味のない祈り)
彼が死に少年は狂い始めた。昼間は何も言わずただ淡々と自分に与えられた仕事をこなす。しかし夜は一睡もすることはなく…物を壊し砕く。嫌いだった殺しの仕事でさえ自分からやるといい、暫くの間、姿を消したこともあった。
「ツナ。」
「何、何か用?仕事でも入ったの?」
仲間の一人で日本に居たときからの付き合いである山本が声をかけたとしても冷ややかな瞳でそれを見る。
「最近、自分を追いつめすぎだ。9代目も心配して暫くツナには休暇を与えるって…。」
「そんなの要らないって伝えといて。」
その瞳は…あの日から何も映してなどいない。山本は声を荒げた。
「ツナ!!!!少しは自分の体を労れ!!」
苦痛の叫びであった。リボ―ンが死んで辛いのはお前だけじゃない!そんな叫びも虚しくそれはツナの声に消される。
「お前に何がわかる!!!」
今にも泣いてしまいそうだった。瞳には涙が溜まる。誰が見てもわかるほどの隈。暴れ、自分を傷つけ残った痕。それは見るに耐えなく…誰もがリボ―ンを思っていたように、それ以上に綱吉を想うことに…彼は気づけなかった。
「…ツナ…。」
「御免、疲れてるんだ。出てってくれ…。」
嫌だと言うことも出来ず、部屋を後にする。
「リボ―ン…。」
ただ…部屋からは彼の名を口にする綱吉の姿だけが残った。
数日後、先代に呼ばれ久々に外へと出た。憎たらしいくらいに晴れた青空と眩しくて想わず倒れてしまうくらいの日差し…。それは気持ちよいものではなく、綱吉にとって、ただ煩わしいだけのもののように感じた。
「新しいボディーガードだ。」
「お久しぶりですツナ。」
聞き慣れた声。そういわれ、声のする方へと振り返る。
「…ランボ…。」
新しいボディーガードなどいらない。欲しいのは彼だけだ。心の中で小さく囁く。ランボの顔が…少しだけリボ―ンとかぶり…そんな自分に苛つく。
「久々で募る話もあるだろう。綱吉、ランボを案内してやってくれ。」
先代は静かに微笑み、その場を後にした。綱吉は案内が欲しいかとランボに訪ねる。彼は首を横に振った。それもそうであろう。7、8年前から会わなくなったとはいえ、昔はよくこの城で隠れ家や秘密基地、近道などを探しては探検したものだ。下手をすればその辺の部下よりは此処の地形を知っているだろう。
綱吉は何も言わず歩きだし、ランボもそれに従う。歩く綱吉を見つめながら…久々に会った彼は傷だらけで、目の下は酷い隈で覆われ一睡もしてないのが手に取るようにわかる。…部屋に案内はされたものの、其処は荒れはてていて沢山の物が壊れていた。前の綱吉ならこんなことは考えられないだろう。テーブルには何本もの空の酒瓶。少しも手をつけぬまま、ただそこに置いてあるだけの食事。リボ―ンが死んでから狂い始めたというのも強ち嘘ではなかった。見るに耐えず、想わず目を瞑り、視線を誤魔化す。(何の意味のないことではあるけれども。)綱吉は静かに椅子へと腰をかけた。
「ランボ…悪いけど今、ボディーガードなんて必要ない。」
そんなことは知っていた。綱吉にとってボディーガードはリボ―ンでしかなく、それ以外の人に背中を預けられるはずなどないことくらい。ランボは顔をあげ…しかし、その瞬間に言葉を失った。
「リ ボ・・ン・・・・?」
自分は錯覚か夢でも見ているのだろうか?自分の目を疑い、擦ったところで、綱吉の横に立つ彼の姿は消えない。あまりのことに、何が何だか理解出来ず、またそんな姿を綱吉は不審そうに見上げた。
「ランボ?」
「・・彼は・・・死んだのでは?」
思わず何歩か後退る。 そうだ。彼は死んだはずだ。最初に彼の死体を発見したのは自分ではないか。ならばコレは夢か?自問自答を繰り返す。夢にしては全てがリアル過ぎる。気持ちが悪い。綱吉の元へと歩み出す。綱吉は一層に不審の目を強めた。リボ―ンへと…手を伸ばす。感触は何一つない。
『お前…見えるのか?』
彼は一瞬だけ目を見開く。
「うあ・・・!!? あ・・あんたは、誰だ?!」
「ランボ!?」
また数歩後退って、その場に座り込む。そうだ、コレは夢なんだ!!明日久々にツナに会うからの緊張しているに違いない。自分自身に自己暗示のように繰り返す。そうじゃなきゃ 今、目の前にいる、透けて後ろのものさえ映す彼は何だ!?幽霊なんてものいるはずがない。そうだ 夢以外の何でもないんだ!!!!!
『存在を否定するな。』
怪訝そうな声が上から降ってくる。
「つ・・ツナ。」
「?具合悪いの?顔が青い。」
「スイマセン・・・ちょっと調子が優れなくて。俺の部屋は?」
『阿呆牛。俺は、此処に存在する。』
「案内するよ。」
「スイマセン、お願いします。」
『オイ。』
急かすように綱吉の背中を押し、部屋を出る。何も見えないし何も聞こえない。そうだ、コレは気のせいである。心配そうな綱吉の声。リボ―ンが居なくなったからと言って根本はそう変われるものではない。
「大丈夫・・・です。」
綱吉の手を強く握る。綱吉を守りに・・救いにきたと言うのに、自分は何をやっているんだ。溜め息が零れる。
「相変わらず、甘えん坊の弱虫ランボのままだね。」
(見た目は人一倍大人になったくせに。)
しかし、そんなランボの姿を見て綱吉は笑った。ランボも釣られるように「お恥ずかしながら」と笑った。部屋の扉が小さく音をたてて開く。
「こっちが此処の鍵で、コレが俺の部屋の鍵。なんかあったらこの電話でもいいし、部屋に来てもいいし。今はあんま来て欲しくはないけれども」
それは、先ほど笑った彼からは想像もつかないくらい冷たい瞳で、彼は何処か遠くを見ていた。(きっと何一つ瞳には映っていないのだろうけど。)ランボへと、3つ同じ輪に繋がった鍵を渡す。チャリ、と冷ややかな音。
「これは・・?」
綱吉の表情が曇る。
「・・・・リボ―ンの部屋の。先代に言われなかった?遺品を片づけろって・・。」
「あっ・・・はい。」
「全部・・・全て、燃やしちゃいなよ。」
綱吉は笑う。それはとても冷たい瞳で・・・笑っては居たけれどもきっと・・泣いていたのだ。彼のいないこの世の中に絶望を感じながら。とてもとても悲しい瞳で。
「ツナ・・・」
「それじゃあ、お休み。」
ドアが閉まる。サヨウナラにも聴こえる別れ。
「俺は・・貴方を守りに来たんです。」
何もない絶望から。彼のいない非現実的から。意味の世界から。貴方が泣かないように…
「笑ってください・・・ツナ。」
届かない願い。ベッドへと沈む。目を閉じて青空になる夢を見た。
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