「リボ………」

俺には彼奴に縋るしかなかった。俺にしか見えない彼奴を。 あの日は…晴れているというのに小さな雲から大きな雨粒が…雨音が響く。ジャポネーではこのような天気を『狐の嫁入り』と言うそうだがイタリアでそれにあたる言葉はない。

「やれ…嫌な天気だ。」
普段なら雨は嫌いではないが、今日は雨の匂いと共に…血の匂いがする。自分もまた先ほど一人殺めた後。肌に張り付き衣服に染み込む滴は気持ち良いものではなかった。

「全く。困った幼馴染だ。」

笑いながら軽く髪をかきあげた。


電話がかかってきたのは数分前。
「おい、確か今日ベィレイナ邸に行くって言ってたな?」
「…な…んのことだリボーン。」

「その近くの通り…多分2本目に数人逃がした。そっちで処理しろ。」
「…珍しいじゃないか、リボーンがしくじるなんて。」

「おめぇに少しおすそ分けしてやるだけだ。切るぞ。」

「ちょ、ってかなんで俺がベィレイナ邸行くって知ってんだよ!!」


ブツリと切られた電話。彼奴の頼み事を失敗したらどうなるか、そんなこと言うまでもない。仕方なく上司の女の元を離れる。(元々苦手だった上司。もしかしたら俺を助けてくれたのかも知れない。)馬鹿げた考えだ。多分めんどくさくなっただけ。(それが大きな引き金となると知らず)

しかし外に出れば生憎の雨。女は仕事など放っておけばいいと言う。(上司のくせに。彼奴とは確かに繋がりはないけれど。)きつい香水の匂いが鼻を刺す。残念ながらと苦笑しながら女の元を離れ、通りへと急ぐ。しばらくその通りを歩くと不審な男が一人。

「…貴方はボンゴレの敵ですか?」
その言葉にビクリと肩をあげる。銃を向けられ、やれやれと溜め息を着いた。

「彼奴の頼まれ事は絶対なんで。」

雷が鳴る。銃声もまた一つ。名も素性も知らない男が命を落としていった。しかしそれが僕らが生きる世界なのだ。

「やれ…数人と聞いたはずだが…。」

周りに同類の姿はない。倒れた男の胸元を探る。ライターに書かれたあるファミリーの名前。少しだけ…嫌な予感がした。リボーンへと電話をかけるも繋がる気配を見せない。


「リボーン!!!!!」

声をあげたって彼奴が近くに居るかなど知りはしないのに。気持ちは焦るばかり。相手は、仲間意識はそう堅くないものの標的を殺すためなら何でもする。そんなファミリーだった。一人が囮となり他のメンバーは仲間を呼びに行くと共に敵の動向を探る。だとすれば周りに似た姿がないことも頷ける。しかしそうだとすれば……。
否、リボーンは世界一のヒットマンとしても知られている。そんな奴が殺られるわけがないと、わかっているのに。何故こんなにも不安なのか。 それから銃声が響き渡ったのに5分とかからなかった。 慌ててその場所に駆けつける。倒れている十数人の男とそこに佇む黒に覆われた、まだ子供っぽさが残るがそれでも鋭い雰囲気を感じさせる男の後ろ姿。


「リボーン…。」

「使えねえアホ牛が。余計な仕事増やしやがって。」
振り向いた彼奴は余裕の顔で俺を見て笑った。

嗚呼。そうだ。リボーンがやられるわけがないではないか。安堵と苦笑。


そんな俺を見て頭だけでなく顔も阿呆面だと、リボーンは笑った。

「最近、ボンゴレの座を、綱吉を狙う奴が増えてきたからな。」

ふと顔がもとに戻る。ツナの為なら殺戮さえ否まない。きっとツナはそんなこと望みはしないけど。 心配した自分が馬鹿らしい。


「…それじゃあ俺は帰る。」
雨が降る中そんな重たさを感じさせないリボーン。

「ツナによろしく。俺は明日からロシアだ。」
酷いコトを言われても憎めない。そんな奴だった。

ヒラヒラと手を振る。いつでもツナの横にいるリボーンが羨ましかった。しかしそれこそがツナの居場所でありリボーンの居場所のように感じていた。それできっと丁度良いのだ。背中を向ける。

誰がそれから襲う悲劇を予想出来ようか。


リボーンと俺が別れて5分、赤く染まったリボーンを発見したのは皮肉にも自分であった。

「リボ……」

その場から逃げ出したかった。夢だと信じ早く朝がくることを祈った。彼は背中から数発の弾を打ち抜かれていた。赤が地面に絵を描いていた。多分撃たれてからも彼は歩き続けていたのだ。(たった一人愛しい人に会うために。)血をたどれば一番はじもに彼が居た場所がわかる。その先に一体の屍。 あのファミリーのものであった。

リボ―ンの顔は皮肉にも穏やかで手に握りしめられた電話の先は…。
嗚呼、俺はどうすれば良かったのだろうか。

「リボ――――ン!!!!!!!!!」

声はただ…木霊して消えた。ボンゴレ本部に連絡をし、花を一本…彼に添えて俺は逃げ出した。怖かったのだ、アイツが死んだという事実を認めることが。もしかしたら一緒にいたら防げたかもしれない。否、俺がちゃんと全滅したか確認していたら…。ただ後悔はいくらしたとしても意味はなく、そのまま逃げるよう次に予定していたロシアへと向かった。葬式に…、皆に、綱吉に合わせる顔がなかった。ただ陰から見たツナは…抜け殻のようだったと今でも覚えている。
全てを知り、ファミリーの名も自分の責任も黙っていた自分は罪深き生き物だと思う。しかし其れを認めることが出来るほど強い生き物でもなかった。

それにあの日…、沢田綱吉をみた時、言ってはいけないと確信したのだ。

「お久しぶりぶりです、ツナ。」

「…ランボ…。」
余計に細く見えた腕と濃い隈。焦点の合わない瞳。


(貴方は、どれほど苦しんだのですか?)

自分のせいでリボ―ンが死んだなど言えるわけがなかった。

そして、俺は――――な結末を迎えることとなる。


『アホ牛。』

「……」
気づけば突然あらわれる透けた体をもった男。

『身体、貸しやがれ。』
彼が零した言葉。
「ツナを…救ってくれるの?」
俺のせいで死ぬなど馬鹿げている。リボ―ンはそう言い、微妙な笑みを浮かべた。全ての元凶は誰だ。俺が言って良い言葉ではなかった。それでも…

「…頼む、あの人を…ツナを救ってくれ。」


掴みたいのに触れない身体。綱吉には知って欲しくても見えず、聞いて欲しくても声は届かない。リボ―ンは…綱吉に触れたいと思ったことはあるのだろうか。だとすればその罪は誰のせいだろう。

『おい、アホ牛』
「…?」

『俺は俺のため、ツナのためにしか生きてない。てめぇのせいとか思っていること自体がおこがましいんだよ。』

「なっ…!」


リボ―ンは笑う。だからお前はアホ牛と呼ばれるのだと。彼は酷い奴である。しかしそれ以上に優しいのだ。(だから誰もリボ―ンを憎むことなど、嫌いになることなど出来ないのだ。)

「なあ、リボ―ン。」

「俺に…綱吉を救う力があるだろうか。」


リ―ボンは目を閉じて、笑う。 「お前にしか、彼奴は救えないんだ。」


そして僕等は走り出す。
(たった一人暗闇に取り残されたあの子を救うため。)