いつまで自分は此処に在ることが出来るのだろうか?

時間の感覚はとうになくなっていた。今が何時だろうが朝だろが夜だろうが外が晴れていようが雨や曇り、星空が浮かんでいようが一向に関係ない。また寒いや暑い、苦しいやら嬉しいなどといった感情は…忘れたのだろうか?
自分でもよくわからなくなっていた。
ただそんな中確実に時だけが過ぎていったのは事実であろう。

そして何故にも死んで尚、此処に在り続けるのか、綱吉が…もしも正常(そもそも正常とは何を示すのか、死ぬ以前だったらわかっただろうか?)になれば縛るモノが消えれば俺は消えるのだろうかなどとくだらない構想を繰り返し、しかしそんなことは知る余地もなくただ俺は其処にあり続けた。


生まれ変わりだとかそんな馬鹿げたものを信じるつもりは毛頭ないが、それでも…もしもまた現世に堕ちるというのなら、綱吉の子供だとかそういった繋がった関係でいたいと願った。
とても愚かな戯言を描くようになったもんだと少しだけ嘲笑する。
部屋を歩きながらモノへと手を伸ばすも、それを掴むことが叶うことはない。肉体が亡んでからどの位の時間がたったのだろうか、綱吉が何も口にせず夜も眠らず、仕事に殺しだけに没頭するよう…、全てから目を背け、ただ自暴自棄の子供のような(否、彼奴はまだ子供だったのだろうか?)ことを起こしどのくらいの時間がたっただろうか。しかしそんな風に教育した覚えは微塵もない。

マフィアだとかそんな荒んだ環境の中で、誰が死んだって可笑しくなどなかった。小さな頃から共に育ち情が移りすぎたのか、ボンゴレにおいて確かに他の財閥を組むマフィアに比べたら平和だったのかもしれない。それでも多くの死を、彼奴は身をもって体験してきたはずだ。
ボディーガードとして、家庭教師として、俺には綱吉を守るという義務があった。ただそれは彼奴を駄目にするためにやってきたわけではない。


(だってそうだろう?そうじゃなきゃ何のために俺は戦ったというのだ)


しかし、多分ほんの片隅で自分がいなければ駄目な彼奴をみてほっとしていたのかもしれない。(それが歪んだ愛だというならとんだ喜劇である。)

「リボーン…」
消えて尚彼奴は何度も俺の名を呼ぶ。其れは俺にとって喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか…自分の感情であるはずなのにわかることはない。ただソファーにうずくまり闇を怖れる綱吉はとても滑稽で愚かだと思った。
(それでも彼奴が俺の為に死んでくれるなら本当は幸せなことかもしれないなどと描くのだ。)

手を伸ばしても綱吉に触れることは叶わない。声を出しても其れが届くことはない。其れはこれほどまでに虚しいものなのだろうか。一つ壊れたネジのせいで確実に歯車は狂い、やがては全てを蝕んで、壊れ…止まる。人を殺めることをアレほどまで嫌った人間が今ではただ気を紛らわすためだけに自ら指揮に出、銃を握る。本来であれば其れが元々のボスの姿ではないか。しかし彼奴に銃など似合わなかった。白に、黒は浮くのだ。誰が彼奴の白いスーツを赤に染めろと言った?完全に壊れたら誰かが綱吉を殺めたのだろうか?否、きっと誰もそんなことはしない、…出来ないだろう。彼奴は色々な人を愛し色々な人に愛され過ぎた。だから一層愚かだと言うのだ。(いつか亡くなるものを愛すなんて重すぎただろう?)


「リボーン。」

ドアが開く。其れは確実に今、精神だけが残る俺に向かって。その声は瞳は俺を映しまるで何かを求めるように。ランボが此処に来て久々に綱吉は睡眠と食事をとった。オニギリなら食べるかもしれないと言ったのは自分だ。

彼奴に生きて欲しいと願う反面、俺だけを想い一層壊れてしまえばいいと願う自分…其れはきっと心の奥底にあるどす黒い何かで、結局は俺もただの子供に過ぎないのだ。(手に入れて自分だけのものにしたい衝動)眠らない綱吉を見つめながら触れられない唇へ髪へ頬へキスを落とし、意味のない馬鹿らしい行動にまた潮笑する。書類が終わってしまえば俺の銃を持て余す。その姿は廃人に似ていて殺意すら沸いた。

「ねぇ…俺がそっちに行ったらお前は怒る?」

誰に尋ねたわけでもないただの独り言。痛々しい姿はただただ俺の心を蝕む。(其れ以上に綱吉は壊れてしまったのだ。)米神に銃を向け、ただ笑い端から見ればただの逝かれた青年。触れられる訳もないのに其の手を引く。

(一瞬だけ温もりを感じたのは気のせいか?)

「リボ…ン…?」
カラカラ、銃が床で音を立て回る。そんなわけがないと、笑う。
(其れをしたのはどっちだ?)

綱吉はベッドへと体を沈ませる。嗚呼誰が彼の人を壊したと、きっと誰もが嘆くだろう。それでも俺は愛していたのだ。

「リボーン。」

牛柄のシャツを着た男は縋るように、頼りない声をもう一度あげる。
「お前を殺した…ファミリーが割れた。」
「そうか…。」

だからどうしたというのだ。死人に口亡し。俺にはもう関係のない話であった。
それに阿呆牛・・お前は・・・。(知っていたはずだ・・・・その・・―――)

「ボンゴレは…ツナはきっとそのファミリーを根絶やしにする」

嬉しいことではないが、それがボスの命なら仕方ないだろうと想う。

「俺の躯を使っても構わない。だから…」

綱吉を止めてくれと牛は鳴いた。俺にどうしろと言うのだ。姿は牛だが中身は俺なんだ。俺のために復讐など下らないことはやめろとでも言えば良いのか?そんなもの一層彼奴を苦しめるだけだ。牛が馬鹿馬鹿しい嘘をついてるととるか、もしくは信じたとしてもボンゴレの将来のための見せしめだとか下らない言い訳を吐くに違いない。思わず溜め息が零れる。

「阿呆牛、俺にはもう何も関係ない…例へお前の体を借りて彼奴に会っても何の意味もない。ただ綱吉を傷つけるだけだ。」
「でも…。」

言いたいことは何となく分かる。きっと誰も綱吉がそんな姿を見たくないのだろう。現に獄寺、山本、雲雀、六道、笹川と皆、綱吉が殺しをするのを嫌った。(皆、彼奴の為に罪を背負おうとする。)綱吉からすれば何一つ意味のない行動ではあるが。

「…なら、綱吉が銃を握る前にお前が全てを消せばいいだろ…。」

「お前はっ…!」

アホ牛は一度顔を上げたもののまた視線を落とす。

「彼奴は、一度壊れかけた。しかしお前が来て立て直したんだ。アホ牛…お前にしか、綱吉は救えない。」

違うと言う悲鳴。何処か壊れた空間。何も残らない空気。消えない記憶。消せない過去。戻らない想い出。誰もが彼奴を救ってくれと願うのに。

「…ランボ?」
ノックの音が響く。アホ牛が慌ててドアを開け、綱吉を通そうとするが首を振り部屋の中へと入ろうとはしなかった。

「随分…片づいたんだね。」

瞳には何も写してないように見えるが?一応もうすぐ一段落がつくとランボが告げると何も言わず目を背ける。
「そういえば、今日明日は特別任務をお願いするよ。」
「えっ?」
「この男に書類を直々に渡して変わりのものを受け取って欲しいんだ。」
一枚の写真と封筒に入った厚い書類。


「ツナ…」
「何?」

綱吉は無表情の笑顔を義務のごとく作る。下手くそな笑みしか浮かべれないことを自分では気づいているか?ランボは首を振る。其れを知っても生きとし生ける者は全て綱吉を受け止めるのだろう。(其れこそがツナに架せられた運命なのだ)


「いえ…何でもありません。帰ってきたら一緒に食事しましょうね。」
「…うん、」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ。」

まるで小さい子供がするような、守られるか守られないか分かることのない誓い。小指を結ぶ儀式。どちらも上辺だけの頼りない顔で笑い、嘘の壁を一層に堅く…硬く固める。(一握りの救いの手だけ残して。)


「それじゃあ気をつけてね。」

「あっツナ!」
振り向いた綱吉の首へと腕を回す。

「リボーンから…渡すはずだったプレゼントですが…」
少しだけ目を見開く姿さえ愛しく想う。其れと供にランボに妬く自分が滑稽で笑えた。(こんな馬鹿馬鹿しいこの感情も消えてしまえばいいのに…)

「…有難う」

綺麗に笑う今の彼奴に偽りはあっただろうか?目が合ったようにすら感じた俺はきっともう本当に馬鹿げていた。だってお前はこれから一人で、ファミリーを一つ、潰しに逝くのだろう?全ての守護者にくだらない任務を与えて。全て極秘で誰にも言わず向かえと、誰々が同じことを言われた?

「ランボ、気をつけてね。」
「…つ、」

綱吉、止めに入ろうとした言葉。其れを言い終わる前に戸は閉められ、慌てて開けたところで綱吉の姿はなかった。静かに動き狂い始める歯車。その先に何がある?とんだ喜劇だ。

「嗚呼リボーン…」
縋るような目も声も彼奴でなければただ鬱陶しいだけなのだ。

「……。」

それでも俺は、彼奴が死んだら泣くのだろうか。きっと馬鹿だと笑い飛ばして誤魔化してしまうのだ。底にある悲しみも喜びも… 抱きしめられたらどんなに幸せか声が届いたらどれだけ良いことか。

「ツナ…。」
死んでいるというのに目眩がした。愛していたのだ。彼奴を。どうしよもないくらいに。

お前が死を望むならそれでもいいと思っていた。しかしお前は気づいているか?例えばお前が死んだとして残された者がどれだけ苦しいのか。知っているのか?自分と同じ状況をつくり出してしまいそえなことを。

『それでも俺はお前を死ぬことを許すわけにはいかないんだ。』

そして俺は決断を下す。


(急げ急げ間に合わなくなる前に。)