彼女を好きになったのは必然であり運命で俺には、ニアと言う女性しか見えなかった。それと共に近くから飽きれのような嫉妬のような温もりのような悲しみのような…そんな視線にも気づいていたけれども、知らない振りを決め込んだ。



「シモン…」

眉間に翳された手、見上げれば優しい彼女の笑顔。

「ニア?」

「皺。」
「あ、ああ。」

「疲れてるの?」
疲れも何もかもニアがいれば飛んでいった。

「大丈夫。あと少しで終わるから、そしたら遊びに行こう!」


彼女は優しく笑う。そんな姿に今でも顔が赤くなる。ドアの開く音。一瞬だけ背筋が伸びた。


「あっ、ロシウさん。」
「こんにちは、ニアさん。」

「やぁ。」
「…シモン総司令官。」
「だからそんな固い呼び方すんなって。」

ロシウは眉間に皺を寄せる。ニアが近づくと慌てて下がった。

「シモンさんが妬くので。」

その言葉にニアは首を傾げたがそんなことくらいで妬くほど俺の心は狭くない。(少なくともロシウのでこ以上には広い心をもっている。)ロシウを軽く睨むと、彼は悲しそうな顔を一瞬し無理矢理下手クソな笑顔を作った。(…のを俺は気のせいと決め込むことにした。)

「それと…、出掛ける時間などありませんよ。」
ロシウが大量に抱えていた書類が音を立て目の前と置かれる。

「俺とニアを軟監で殺す気か!!」
「ニアさんは関係ないでしょう。アナタが溜込むからです。」
「横暴だ!」


そんな声も後目に、ニアはキヤル達の所に遊びに行き、俺はと言えば書類と室内デートをする事となった。


 



「ニア〜ニア〜」





「ニアさんはまだ帰ってきてません。早く終わらせてください。」
「無理、ニア分が足りない。ニアに癒されないと書類書けない。ニアに会いたい。…ってかロシウのがこういうの向いてるだろ?」

出来るだけ気まずい雰囲気にならないよう神経の全てをニアへ捧ぐ。でなければ早くロシウが去ってくれることを祈る。


(最近…いや前からどこかで彼を……。)



「…ってかお前は自分の仕事はいいのか?俺といても進まないじゃん。」
「目をはなすとサボるでしょう。」
「違う奴見張り置きゃあいいのに。」

無言は何よりもキツいものとなる。

 

 

「あぁ…兄貴とかニアがいればなぁ。」

 

 

そしてうっかりこぼした言葉は地雷を踏む。

「貴方と言う人はいつまでもカミナさんカミナさんと!!いい加減にしてください。いない人を呼ばないでください!」


何故怒るのか。まるで兄貴じゃなく自分を――――してくれともとれる台詞を閉ざす。

 

「なんでロシウはそんな怒んだよ…カルシウム足りないんじゃないの。」

「シモンさんは脳みそが足りないのでは?」

「失礼なやつ。」

ロシウを、自分を笑う。安い挑発には乗らない。彼が、時々何よりも恐ろしいから。

 

 

「シモンさん、僕は。」

お前の言葉なんて聞きたくないんだ。(だって確実に何かが崩壊するから。)

「確かにニアに会う前とか兄貴のことでヤサグレてたけどさ、今はそんなの関係なくしても俺にとって兄貴は…大切な人だから。」

引きずってなんかいないから安心しろと彼に続きなど言わせない。(俺は残酷だろうか?)目を瞑りニアを思う。(こんな汚い俺を許してくれと。)

 

 

ドアが開く。

「ニアッ!!!!」

彼女に抱きつくのは自分が怖いから彼が怖いから。そうじゃない。彼女が綺麗だから。彼女が真っ白だから。いつか俺を捨ててしまうんじゃないかと。とてもとても怖いから。

 

 

 

「ニア…。」

 




どうか俺の罪を許しておくれ。

「シモン?」

彼女は優しく俺を撫でてくれる。彼女は何も言わず俺に笑顔をくれる。彼女は勇気を、優しさを、力を、強さをくれる。

 

「愛してる。」
愛してる愛してる愛してる何度だって繰り返したいくらいそんな言葉じゃ足りないくらい。

 

 

「私もよ、シモン。」

 

溜息と部屋のドアが閉まる音。目を瞑ったままの俺には…あいつがどんな顔をしていたのか知らない。

 

 

 

「ニア…俺を許してくれるか?」

「シモン?」

「俺は…罪深いんだ。」

彼女は笑う。

 

 

「シモンはシモンよ?」

そして瞼に優しい口付けを。

「愛してるわ。」

 

俺は彼女を強く抱きしめ見えないよう少しだけ泣いた。
(汚い自分に優しい彼女に可哀想な彼に。)