ズキズキと痛む傷口と止まらない血。意識が朦朧としてきて、刀を握る手に力は入らない。倒れこんで目に映るのは赤い紅い夕焼け。嗚呼、俺は此処で死ぬのだろうか。そう思うと…なんだか笑えた。  

『まだ死ねない理由』 

一面に広がる夕焼けを見上げてただ笑えた。刀で戦ってる相手に銃なんて卑怯じゃないか?なんて思ってみたものの、よく考えたらうちのファミリーは、花火(獄寺にそう言うと、ダイナマイトだと怒られたが)とかトンファーやら素手やら…と、銃なんて使わない奴らばかりだった。(いや、坊主だけは昔から銃を使っていたが)ってことは、やっぱ俺がまだ未熟だったからか?ツナを守るだとか抜かしといて結局いつも助けられてばっかしで(アイツはそんなことないと笑ったけれども)情けないのと不甲斐なさとで胸が一杯になりうっかり泣いてしまいそうだった。いや、泣けたらどんなに楽だったのだろうか…。ぐらりと歪む風景に目眩を覚える。ドクドクとまるで心臓がそこにあるかと錯覚してしまう位、傷口は脈を打つ。血は止まることを知らないらしい。こんなことなら、出かける前にキスでもしておけば良かった。無理矢理でも全てを奪ってしまえば良かった。何百回でも愛を伝えればかった。後悔というか未練というか…馬鹿馬鹿しいことだけが脳裏をよぎる。

「山本!!」

誰かが俺の名を呼ぶ。空を眺めてたってのに無理矢理起こされる身体。目に映ったのは
「…獄寺。」
そうだ。何を期待していたのだろう俺は。今日は獄寺と二人での任務だったじゃないか。声だって全然違うのに、それでも彼じゃないかと期待してしまった自分が馬鹿らしかった。

「なんだ…獄寺かよ…」
へらりと笑ったけれども獄寺は益々眉間へ皺を寄せて俺を睨みつけた。(そんないつも皺寄せてたら消えなくなるぞ)
「敵…は?」
「てめぇが寝転がってる間に片付けた。サボってんじゃねぇよ!」
「悪りぃ、悪りぃ」

肩をかりて起こされたものの…上手く足に力が入らない。実は視点も上手く定まらない状態だ。
「てめ…重いんだからちゃんと踏ん張りやがれ!」
なんとなく獄寺に怒鳴られることすら幸せな時間に感じた。
「なぁ…獄寺。」
相変わらず俺が呼ぶと
「あ゛ぁ?」
と嫌そうな声だすのな…。

「俺…死ぬ…かな?」


口にしてはいけない気がしてたのに…零れ落ちた言葉。
「…。」
しばらく沈黙が続いて、本当は「悪りぃ、冗談だって」なんて笑いたかったけれども震えて声すら上手く出すことができなかった。大丈夫…俺が死んだって獄寺だって雲雀だって小僧だっているし。大丈夫、元々俺はそんなに役に立ってなかったし。大丈夫…ツナは俺がいなくたってなんなく笑ってくれるだろう。大丈夫、彼は泣いたりしないし…大丈夫…大丈…夫…

「ふざけんな。」

ほぼ無理矢理に引きずられた。足が地面へと擦れたまま引きずられていく。

「お…おい…。」
獄寺は何も言わずただ歩くだけだった。
「10代目を傷つける奴は許さねぇ、とか抜かすならこんな所でくたばってんじゃねぇよ。」
意味が理解出来ない。そんなこと今は関係ないじゃないか。
「こんな所でくたばって恥ずかしいとか思わねぇのかよ。」

「少なくとも俺は…死ぬなら10代目を守って守って守り続けて死にたい。」
獄寺の表情は見えない。でも、きっとツナはそんなこと望まない。むしろ自分を責め、勝手に死んだ獄寺を恨むだろう。そう思うと獄寺もまだまだだなと笑える。

「てめぇが死んだら…10代目が泣く。俺は責められるだろうし、んな所で死んだら許さねぇ。」
ツナは誰かを責めたりなどしない。泣くなんて有り得ない。獄寺が優しい…もしかしたら全て夢なのかもしれない。そうだったらいいと目を瞑る。それでも、痛みは消えることなくズキズキとドクドクと脈を打ち痛みを伴いながら静かに俺の寿命を蝕んでいく。ただそう感じた。皮肉なものだ。ツナが前に「山本って、なんだかんだでお爺さんになるまで生きそうだよね」なんて笑われたばかりなのに。その時はツナも隣で笑ってんだよな、って言ったら顔を真っ赤にしてたっけ。嗚呼、最後の最後はアイツの胸の中で死ぬって決めてたのに。最後に顔も見れないなんて…触れれないなんて、声も聞けないなんて…嫌だ。


「山本」

「…」
「10代目が誰よりも大事に思ってる奴、知ってるか?」
坊主のことか獄寺か…。俺が何も言えずにいると舌打ちの音が聞こえた。
「山本。」
「…んだよ…」
「てめぇだよ。」
何を言っているのか理解出来ない。ツナの一番が俺だというのか?そんなの嘘だ。だって右腕は獄寺
だしいつも一緒にいるのは坊主だし…何より俺はもうくたばる所じゃねえか。
「10代目を傷つけたら…許さねぇ。」
獄寺は今どんな表情をしているのだろうか。だって、お前は…
「だから死なせねぇ。」
血が止まったのか痛みに慣れたのか…少しだけ覚醒するような感覚を覚えゆっくりと目を開けた。そのとき…初めて獄寺も手負いを負っていることに気付いた。

何を俺は弱気になっていたのだろう。コイツは傷だらけでも真っ直ぐにツナに会うために踏ん張っているというのに。例へ何処に穴が空こうとツナのために生きようという自分は何処に行ったのだろうか。
「悪りぃ」
少しだけ足に力をいれる。やはり痛みが引けたわけではなかったけれども。
「んなことで謝るくらいなら死ね!」
獄寺が舌打ちをする。多分、それがコイツの精一杯の優しさなのだろうけど。

「山本!!獄寺君!!!」
愛しい人の声が聞こえる。ツナだ。ツナが此処に来たってことは…全てが片付いたのだろう。
「まだ死ねねぇな…」
獄寺にしか聞こえない程度の声で小さく呟く。
「チッ。」
舌打ちしやがったとか思ってる間に突然腕を放されて尻餅をついた。

「イテテ…」
普通こんな所で腕を放す奴がいるか?それでもツナが心配そうに走って来てくれて、強く抱きしめてくれて、ドクドクとツナの心音だけが俺の中に響きわたる。嗚呼、生きているんだと…そう感じた。生きててれて良かったと呟くツナを強く抱きしめて少しだけ弱気になった自分を悔やみながら、「ただいま」なんて。頼りなくツナを抱きしめた。

 

(泣かないで俺のためなんかに。
いて俺のためだけに。
にいるかぎり俺はまだ
ねない。)