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ねぇ、ボンゴレ…。
それはとても甘くそれはとても苦く苦しい声だった…。そっと目を伏せ、その蒼く重い髪を撫でる。男は汗を滲ませながらも其れに答えるかのように少しだけ微笑んだ。何かを喋ろうと口を開けたが、そこからはヒューヒューと言う音が漏れるだけで声が鳴ることはなかった。綱吉は泣きそうになりそれでもまだ生きていることを確かめるが如く彼を強く強く抱きしめる。ボンゴレでも最強にして最悪と唄われた霧の守護者は、ボンゴレにとっても敵とも感じるような男であった。しかし、そんな彼が尚もボンゴレを人を守り続けたのは一人の男に惹かれたからであろう。ボンゴレ10代目にして甘すぎて愚かで弱い生き物。敵であったはずの男を心配し誰も傷つけまいと戦い…其れは今まで生きるために人を殺し全てを憎み、疑うことしか知らなかった六道骸からすれば異様ともとれる行為であった。
「それでも俺は、守りたいんだ。」
子供の頃に、彼に会っていたら僕等はもっと幸せに暮らせただろうか?歪みきった後に敵として出逢ったことを少し悔しく想いながらも、其れが運命(さだめ)だったのだろうと想うと少し可笑しく骸は静かに笑った。
「御免なさい、ごめん…お願いだから…」
六道骸を抱きしめて(体格が小柄だからかしがみついているようにもとれる。)それでも男は何度も、何度も謝罪と祈りを繰り返す。其れは彼の罪か?骸は苦笑した。声は鳴らないけど言葉は確かに男に届いていた。涙がベッドに零れ白いスーツには赤。骸は彼の瞳を舐める。男は驚いたように目を見開き、其れでも骸から放れようとはしなかった。可哀想な人だ。骸は目の前の愛しい人に同情した。六道骸が死をさまようはめになったのは彼のせいではない(と少なくとも骸は想っている。)本当は自分自身がいつかこうなることを望んでいたのかもしれない…そう考え、そんな絵空事を描いた自分を笑う。
それはボンゴレ10代目とオフの日につき合わされ墓参りをしているときだった。どちらも影からつけられていることは気づいていたが殺られない自信、そして平和主義のボンゴレは基本、誰もない限りは敵と殺りあおうとはしなかったため敵から何かされない限りは自分から攻撃するようなことはなかった。墓参りも終わり、綱吉も骸も油断していたのかもしれない。花束を置き綱吉が顔をあげようとした瞬間であった。強く押され、骸の咽をナイフが斬る。崩れかける体制のまま骸は銃を放った。元々ボンゴレを狙ったナイフだったため致命傷は免れたものの声帯の損傷、傷口からの出血は予想以上に酷く六道骸は…声を失った。骸を斬った男は馬鹿なことに何も知らずただボンゴレを暗殺しろと命令されていた。簡単にファミリーの名を明かし、その3日後…そのファミリーは壊滅した。
「綱吉君…」
音に鳴らない声でも彼は反応し涙目のまま六道骸を見上げる。
「泣かないでくださいボンゴレのボスである前に大の大人でしょう。」
それでも目の前の頼りないボスは泣き止む術を知らなかった。自分のために泣いてくれるのは嬉しいけれども…六道骸は苦笑する。
「貴方の笑顔を守りたかったのに…それでは僕は困ってしまう。」
ボンゴレ10代目はもう一度だけごめんなさいと呟き顔をあげた。無理矢理にでも笑顔を作って涙を零さないように。
「いい子です。」
鳴らない声で静かに骸は笑う。 始め、骸の目的はボンゴレ10代目の身体を手に入れることであった。全てはそう、世界を変えるための序章として。しかしそれはいつの間にかボンゴレではなく「沢田綱吉」を手に入れることになっていた。殺しや暴力を嫌い敵だった者でさえ心配をし、幸せを願い何処までも甘い人間。愚かしいと思いながらも愛しさは募るばかりだった。きっと…もうボンゴレ10代目が骸から離れられることはないだろう。骸は笑う。
「骸…。」
小さな手は骸を包み込む。
「知っていますか?」
口元が見えなきゃ聞こえない言葉 僕は今幸せなんです。
「やっと君を手に入れた。」
あの日、死んだ敵の男には骸の持つ三叉槍の傷があった。
(そして全ては…。)
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