「十代目…。」

ぎしり、彼はゆっくりとベッドから体をあげた。また義務の如く微笑む。


「獄寺君、煙草一本頂戴?」


何故そんなにも悲しい瞳をしているのか。困惑する。
「どうぞ。」
しかし、今の自分に彼を止める理由はなかった。口へとくわえた煙草へ火をつける。仄かに、彼の甘い香りがして目眩がした。部屋へと舞う煙。すう、勢いよく彼はニコチンを吸う。

「ゲホッ、ゴホ…ケホッ…おぇ…」
予想出来ていた出来事。

「大丈夫ですか。」

噎せて嗚咽の止まらない彼の、背中をさする。

「ケホッ…獄寺君…いつもこんなっゲホッ…吸ってたの?」

涙目の彼に、また愛おしさを覚える。

「最初は皆、そんなもんですよ。」
知ってたなら止めてよと。複雑な顔。

「止めても自分で買って吸ったでしょう?」
笑顔で問う。 罰の悪そうな顔に、ちぇ、と舌打ち。 そしてまた、軽く噎せた。俺はそれを笑う。



「なんか最近、意地悪くない?」

「そんなことありませんよ。」
「全く、誰に似たんだか。」




「十代目。」





犬は…飼い主に似るそうです。

小さく開かれた目。彼は頼りなく八の字に眉を下げて笑う。

「ねえ、獄寺君は…」
「はい。」
「なんで煙草吸おうと想ったの?」

今度は自分が苦笑する番であった。








「ずっと昔…、十代目に出会う前まで。少しだけやさぐれてました。」


「…うん。」

(もしも…獄寺君が俺より先に良いボスに出会っていたら、今此処にいなかったのだろうか。)

「皆に子供は使えないと馬鹿にされて、悔しかった。」
「うん。」

「俺は十分マフィアの一人としてやっていけると、想っていたんです。」
「うん。」


「多分、早く大人に成りたかったんでしょうね。」


誰かに認めて貰える自分に。誰かに必要とされる自分に。

「まぁ、そんなんで煙草始めたあたりも今思えば子供でしたが。」
彼はそれもそうかと笑い、また悲しい瞳をした。


「十代目は…。」

「 え。」


「何故、今更になって吸おうと想ったんですか。」
なんとなく予想は付いていた。意味のないこと。それでも彼を助けることが(自分なら出来るかもしれないなんて…なんて思い上がりなんだろう。) 笑わなくなった彼に何も出来ない守護者。
滑稽であり。惨めであった。
ボスが愛したのは家族であり全てであり皆であったはずなのに。 俺はあの人をとても尊敬し羨みそれとともにとても疎ましかった。 ただ一人、彼の特別となったあの家庭教師を。


「そうだね、なんとなく煙草の煙を見てたら」


「彼奴の所へ行ける気がしたんだ。」


(まるで消えてしまいたいとも取れる言葉。)

生きているかさえ定かではない、何も言わず突如消えた家庭教師。それだけで、強いと想っていた彼の心を、精神を、全てが壊れるのは簡単であった。何も言わずに消えたあの人を、誰が憎まずに居られようか。しかしそれ以上に、何も出来ない自分に彼を救えない無力さに絶望する。




「十代目。」




「Rebornの意味って知ってますか?」
首を傾げる。


「復活、という意味があるそうです。」
そういえば、今まで考えた事もなかったと彼は小さく笑う。ただそこに偽りがないことを祈る。 あの人のコトです。

「また、きっと。」


「…?」
「また突然現れては『俺が居なきゃなんもできねぇんだな駄目ツナ』なんて笑うはずですから。」



「そんなふてくされた顔でやさぐれないで下さい。」



あの人のためにも。
貴方のために。
皆のために。




俺の為に……。なんて。


「皆、リボーンさんが居なくなってから十代目が元気ないから、」
心配してるんですよ。(不安なんです、壊れてしまいそうで。) 目を見開く。失礼は承知であった。




「帰ってきたリボーンさんが驚くくらい格好良くなって見返してやりましょうよ。」





彼は。声をあげて笑った。


「じ、十代目?」
理解出来ない出来事。あはは、それでも彼は笑う。

「ごめん、獄寺君。」
くつくつと、おさえきれていない笑い。いつぶりか。彼がこんなに笑うのを見たのは。しかし、笑うようなことを言った覚えはない。

「確かに、リボーンに馬鹿にされるのも癪だ。」

にやり、そんな効果音が似合いそうだ。


「犬って飼い主に似るんだっけ。」
「え、えぇ。」
「なら…こんな湿気た顔してられないね。」
「友達なはずなのに飼い犬みたいな獄寺君にまで、そんな顔されたらたまらないもん。」





部下でも守護者でも右腕でもない。獄寺隼人として自分を見てくれるこの人を。



「飼い犬なんて、それはないですよ!」





「ツナ。」




一瞬だけ驚いた顔と「ゴメンゴメン!」また笑い始めた彼を。



「隼人は人だもんね。」




…誰が愛おしいと想わずにいられようか。



「さて、五日前からの書類が溜まってます十代目。」
「ちょ!」
「リボーンさんを見返すんでしょう?」


頭をかく。

「…獄寺君。」

「はい。」

「俺よりリボーンに似たんじゃない。」





そしてまた、にやり。笑い声が部屋を包み込んだ。 (貴方が笑っていればきっと皆幸せになれるから。)