『最後に望んだこと。』

血まみれになって意識さえ朦朧でそこで止まればもう力尽きて目覚めることはないだろう。それでも歩きつづけた。ポタポタと滴る血に 自分の油断が招いた不運に苛立ちを隠し切れない。 しかし、今はそんなことにすら構ってられなかった。時間がない。多分、自分の命はあと数時間も持たないだろう。腹部への激痛と しっかりとしない足取り。彼が見たら、どういうのだろうか。きっと涙を溜めながら僕を馬鹿だと攻めるだろう。それか、自分のせいだと自分を嘆くだろう。
どちらにしても そんなこと求めちゃいないけど ただ・・ 彼が泣くことだけは目に見えていた。
歩いているだけで息が荒くなり、足が思うように動かない。 バランスが崩れた。

よっかかるように、嫌いだった櫻の木へと倒れる。自分の愚かさに苛つく。地に膝をつけた地点で、立てそうになかった。最後の最後まで・・探し物にもたどり着けずに油断からできた腹部への傷で・・息耐える自分が馬鹿らしくて笑えた。ゆっくりと目を閉じる。

「・・・雲雀・・さ・・?」
本物か ただの幻聴か。(ただの幻聴だったら僕も相当な馬鹿だ。)
「・・綱吉・・??」
眠気から目を覚ますように ゆっくりと瞳を開ければ、そこには探していた 彼が居た。

「・・・・。」

泣きそうな顔をして 目の前にいる彼に安堵しながらも本当は夢なんじゃないかと 小さく思う。
腕を伸ばして 触れられることにほっとした。

「雲雀さ・・・?なんで・・」
「・・君を探してた。」

手を伸ばせば、暖かいぬくもりに包まれてそれと共に、彼の瞳から零れている涙を 優しく掬った。

「・・なんで こんな。」
「ちょっとね・・情けないね、君の前で。」
「そんなんじゃなくて・・」
「笑ってよ・・君の泣き顔は嫌いだ。」
君の泣き顔を見たくて 探したんじゃない。ただ・・ 最後に眠るなら・・・

「いつも・・貴方は無理なことばかり言うんですね。」

それを察したかのように君は・・泣きながらだったけど無理矢理だったけど・・はにかむように 笑って見せた。

「それが取り柄だからね・・。」
痛みは増すばかりで それでも少しでも長く触れていたくて
「本当・・嫌な人ですよ 雲雀サンは。」
どうせなら男らしく 君を守って死ねれば良かった?そんなことしたら 君はますます泣くばかりだろうけど・・自問自答してゆっくりと 目を閉じた。

「好きだよ。」
「な・なんですか 急に・・」

もう 視点が定まらないのがわかった。見えないけど多分、真っ赤な顔をしているのだろう。

「御免・・先に逝くけど・・当分 君はこなくていいよ。」
「ッ! 何ふざけたこと抜かしてるんですか!雲雀さん!!」
「・・ふざけてないよ・・・。」
もう開けることのない瞳の近くに 何滴かの水滴が落ちてきた。
「・・ また 泣いてるの・・?」

いっそ、息を止めて 楽になってしまえばいいんだけど君がそんなんじゃ いつまでたっても死ねないんだけど・・。そんなことを小さく思いながらため息をついた。

「泣いて・・ません。」

「そう・・。」
目は開かないけど 否定するなら落ちてくる涙くらいどうにかすればいいのに・・

「綱吉・・」
「・・・・・」

「最後に 一つだけいい・・?」
「・・・なんですか。」

きっと彼はもう 僕の目が開かないのも あと数分ももたないのも わかっているのだろう。
それでいて 必死に耐えているのだ。

「 もう・・僕以外の奴のためには泣かないで。」
「・・・・・・」

返事は返ってこなかった。かすれるような声で囁いた言葉・・届かなかったかもしれない 風の音に消されて。それならそれでいい・・・

「・・・いつだって・・貴方以外のことで 泣いたことなんてありませんよ。

彼は何かを囁いた。意識は朦朧とし その言葉は・・・

しっかりと 耳に届くことはなかったけど
ただ最後に 暖かい唇が 僕の唇に触れたことは確かだ。


(そして最後のキスは 少し塩辛い涙の 味だった。)

END


*反転すれば最後の綱吉の言葉が見えたりします。