▼1827+死ネタ?注意

  


『櫻吹雪』

泣かないでと貴方はいう。そんなことで涙を流すのは間違っていると。それが間違っているのなら、僕は何に涙すればいいのだろうか?シトシトと止まぬ雨に、貴方すら涙しているように見えるのは、錯覚かもしれないけど。

「まぁ・・最後を君に看取られるのも 悪くはない。」
そう言って笑う貴方をみて、余計に泣きたくなった。

「喋らないで下さい。直ぐ先に病院があるんです。貴方が死ぬなんてあり得ない。」
「失礼だね、君は…僕だって人間なんだから死ぬときは死ぬよ。」

涙がこれ以上零れないように、真っ直ぐに前に足を進める。
地面には、まるでヘンゼルとグレーテルが迷子にならないために残すパンのような・・・点々と血のあとが続いていた。そして雨が帰り道を消すようにそれをぼかす。
耳元にはヒューヒューと耳障りな音が聞こえ、横に居る人の重症さを表しているようにもみえた。
 何故、撃たれたのが自分じゃなかったのかと、自分への苛立ちと普段冷たく、滅多に笑ってもくれないくせに…こんなときだけ自分を庇って…打ち抜かた男…雲雀恭弥への怒りも収まらなかった。
きっと、なんで自分なんかを庇ったのかとかそんな野暮なことを聞いたって、鼻で笑い、「僕以外に君が負けるのが許せなかっただけだよ。」なんて気のきかない的を得てない答えが返ってくるのは目に見えていたが。…それでもどうしてと思わずにはいられなかったのだ。

だんだんと歩くスピードが遅くなり、肩へとかかる体重が重く感じられる。雲雀さんに庇って貰ったからと言って自分が無傷なわけじゃない。

「・・雲雀さん?」
「何?」

ゆっくりと顔をあげ小さく睨む瞳に生気は感じられなかった。あと少し・・あと少しで病院に着き、そこへ行けばリボーンや獄寺君だって待っている。そしてこの人だって助かるのだ。上手く力が入らない足に、動けと踏ん張りを利かせて一歩一歩確実に進もうとする。
「何 泣きそうな顔してるの?・・一応はボンゴレのボスなんだから・・・そんな顔 するもんじゃないよ。」

いつだって、優しい言葉なんて掛けてくれやしないのに
「なりたくて・・なったわけじゃありません。」
自分も憎まれ口しか叩けなくて・・苛々する。
「赤ん坊に聞かれたら、今にも殺されそうだけど。」
少し笑うと、その後雲雀さんは咳込んだ。血を吐きながら。
「ッ!!雲雀さ・・」

声が震える。少なくともこの時期の雨は二人の体温を大きく奪うものだった。寒さからか震えが止まらない。足が進まない。それに気づいたのか雲雀さんは全ての力を抜くように俺の腕から抜けて地へと足をつけた。

「君は・・一人で行きな」
「何言ってるんですか!!」
貴方をおいて何処かに行けるはずがない。貴方なしにして何も出来るはずがない。

「僕は・・・」

貴方を・・。
強く腕を引かれる。触れるだけのキス。その先の言葉は鳴らない。

「大嫌いだよ。かみ殺したくなるくらい。」

そんな苦しそうに笑わないで欲しい。涙は止まることを知らない。胸が苦しくて声は出ない。

「目の前から消えないなら僕がかみ殺す。」
雲雀さんはゆっくりと立ち上がり、僕を睨んだ。赤く瞳孔を光らせて。
「ッ!!」
「行きな。」
もう振り返ることは出来ない。不器用な優しさ。そんなものはいらなかったのに。傷の痛みなんかより胸が苦しくて息の仕方すら忘れそうになる。息が白く、雨が雪へと変わる。
銃声が聞こえた。
わかっていたんだ、追っ手が居たことくらい。二人じゃ不利なことくらい。自分じゃ役にもたたないことくらい。きっとあの人は此処で死のうとも全ての敵を倒してしまうだろう。そんなこと僕は望んでいなくとも。
死なせたくないと思う自分が居る。どんなに酷い傷でも、ただの自分のエゴでしかないとわかっていても。息は切れ切れになり、手は悴み、何より震えは止まらない。貴方は望んでなどいないことばかりする。

銃を握りしめた。

腰には、昔ディーノさんに貰った鞭がある。足を止めた。きっと貴方は怒るだろう。

それでも、僕は・・・。

道を引き返した。寒さも震えも感じられない・・ただ心臓の音だけが頭の中を大きく鼓動する。雨は次第に雪へと姿を変えた。

足音に気づいたのか敵のファミリーの一人が振り向いた。迷わずに引く引き金。今の今までこの手で人を殺したことなどなかったのに…今は何一つ感じなかった。

「…綱・・吉?」

ただ雲雀さんの声だけがしっかりと届いた。
「死なないでください・・命令です。」
目を反らさずにじっと見た瞳は、今まで見たことがないくらい優しいものだった。
「君は本当に馬鹿なボスだよ。」

そして彼は小さく笑うと、またトンファーを握り、ゆっくりと背中を自分に預けた。
「まぁ・・君なんかの助け必要ないと思うけど。」
銃声は合図と化す。敵の声は自分には届かない。迷わずに眉間を狙い引き金を引き、倒れるのを見ていた。何かを叫んではいるが何一つ声は聞こえない。殺しという、今まで悼み嫌ってきた行為に罪悪感はない。目の前にたつ敵の姿は 見えなくなった。

「・・・」
それでも銃を握る手は緩まなかった。
「綱吉!!」
気づいたら雲雀さんが居て
「・・ひ・ばりさ・・」

初めて手が緩んで、握りしめていた銃は不釣り合いすぎる真っ白な地面へと落ちた。
「・・・。」
何を想ったのか 彼は僕を強く抱きしめた。そしてまた…それはスローモーションのように、銃声が大きく鳴り響き彼の背中を・・心臓を射抜き、それでも彼は美しく笑っていた。敵が何を言ったのか知らない。ただ…その男もまた笑って死んでいったのは確かだ。そして目の前にあった温もりは…一瞬にして途切れた。

「・・ひ・雲雀さ!!」
なんでこの人は二度も自分を庇ったのか。むしろ一緒に死なせてくれた方が楽だったのに。
「情けない顔」
彼はそれでも笑う。
「悪いけど・・命令には従わない主義なんだ。」
そんな言葉要らない。何かが切れたようにボロボロと涙が零れ落ちた。
「・・大嫌いだよ。だから・・僕の分まで、苦しんで生きな。」

彼は笑う。それはそれは美しく、誰もが見惚れてしまいそうな笑顔。
「恭弥。」
その言葉に一瞬肩を震わせたものの彼は・・・静かに目を閉じた。聞こえているだろうか?


「僕も・・愛しています。貴方のことを。」


返事はなかった。涙も止まらずそれでも俺は笑ってみせた。そしてまた…彼、雲雀恭弥も最期に微笑んだように見えた。


(雪は赤く染まり、彼はまるで…桜に包まれ眠っているようだった。)

END